2016年7月10日日曜日

月報1-2016.06月

 HR/HMシーンの楽曲とは我が世代の中では人並み以上に付き合ってきた自信があるけれど、これほどディープにもぐりこんで聴くことが出来るようになったのはこの素晴らしいストリーミングという新たな文明のおかげであることはまず間違いない。
 一般的な生活があって、そこに要する資金が限られている以上、気になった全ての音楽作品を購入することはとても出来ない。マニアなら、やれアナログは素晴らしく云々、なのかもしれないけれど個人的には全く馬鹿げていると思っている。スペースも資金も有限だ。経済的であることは素晴らしい! そういうわけで、俺はAPPLE MUSICを全力で支持する。いや、別にGOOGLE PLAY MUSICでも良いのだけれど。信用ならなさはどちらも似たようなものだろうし。

 今月(2016.06月)はざっくり言うと前半はRageばかりを聴いて、後半はSaratogaからスタートしてスパニッシュな作品を集中して聴いた。購入して聴いたのは国産のShiver of Frontier /Memory of  Destinyぐらいか。あとは基本的にAPPLE MUSIC。別にルールとして定めているわけではないけれど、聴きたい音楽の全てがAPPLEから配信されるわけでもないし、ちゃんと必要に応じてお金は使う。忙しくてなかなかライブを観にはいけない状態が続いているけど。

 Rageは新譜から順番に古いものに向かって改めて聴きなおしていった。速いものからどっしりとしたものまで、何をやっても全てを自身のサウンドとして発信できるワグナーのヴォーカル技術は聴いていて本当に気持ちが良い。新譜ではメンバーが交代になったけれど、よりストレートな、骨太な音楽になっていて、中には退屈な類の原点回帰と見ているようなファンもいるようだけれど個人的には望むところ。Rageの長い歴史の中の、メインストリームが強烈に前面に出ている素晴らしい一枚だと思う。ギターがテクニカルでなくなった、とかその手の感想が適切かどうかは何とも言えない。俺自身はヴォーカリストとしてずっと訓練してきているから、まずヴォーカルがフロントマンとして表現力を有しているかどうかを聴いてしまう。ギターソロの味付けが少し変化したことについて「全く」感想がないわけではないけれど、それによって減点的に音楽を捉えたりはしない。むしろ、楽曲の中で存在感を発揮する美しいギターフレーズがあれば、それで十分だと思う。必ずしも「弾きまくらなくても」良い。だから俺はあまりイングヴェイの作品が好きではないのかも。どのインタビュー見てもシンガー軽視なんだよね、イングヴェイ。七月号のB!誌じゃドラマーも否定してたし。まあその結果の新譜は残念としか言いようがない音質だったと個人的には感じているし、世間で評価されているほどヘタクソだとは思わないけれど、イングヴェイ自身のヴォーカルは楽器の一つとしては聴けてもシンガーの「歌」としては評価不可能! 一度聴けば十分だ。俺は別に保守的な聴き手ではないけれど、悪口を言うために嫌いな音楽をじっくり聴く奴はバカだと思う。つまらねえ、と感じたらさっさと止めて次のアルバムに行けばいい。

 スパニッシュ系を集中して聴いた月の後半は、なんだか不思議な時間だった。勿論、それ以外のバンドも聴いたし、このブログのレビューや俺のツイートでもわかるように無軌道に聴きまくっていたんだけれど、何故だか気が付くとスパニッシュな響きに引き寄せられてSaratogaやDarksun、Mago de Ozなんかをよく聴いた。あとは無軌道な中でもHangarやHYBRIA、Angraも聴いていたから、欧州風や北米的なものとはまた違う響きが欲しい時期だったのか。Saratogaの今年出たアルバムは心から名盤だと思う。抜群に巧いというのとは違うけれど、何度も何度も聴きたくなる。ジャケットのデザインセンスもすごく俺のツボにはまってしまって、何か聴きたいな、という時に、未聴のままで放置しているアルバムが何枚もあるのについSaratoga/Morir en el Bien,Vivir en el Malを手に取ってしまう。問題は一つ。俺はスペイン語が一切分からないことだけ、かな……。

 購入して聴いたShiver of FrontierのアルバムMemory of  Destinyは、楽器隊がとても頑張っている佳作だった。ヴォーカルは今一つ、高いトーンは良く出ていたけれど硬さが残っているのか、オペラティックと言うにもか細い、率直に言ってあまり出来の良い歌唱ではなかった。ところで、特にハイトーンだとどうして日本のシンガーの多くはあんなにみっともなく力んで歌ってしまうんだろう。声帯の都合上、欧州的な歌いまわしが厳しいってのは聴いたことがあるけど、そういう問題でなく単純に力み過ぎだと思う。別にマイケル・キスクやカイ・ハンセンの物真似を所望するわけじゃないけれど、クリーンならクリーンで、もっと自然に歌えば良いと思う。高いトーンを出すことだって、別に力まなくてもテクニックでカヴァーすべきことだし、その手のテクニックは訓練によって習得すべきものだ。例えばDivine windのSATOSHI氏はその点素晴らしくプレーンな歌唱で、日本人のメタルを歌うヴォーカリストの中でもそうとう上手い部類に入ると思う。
 Shiver of Frontierについて話を戻せば、今作ではまだまだ独自性という面でも弱かったし、メインタイトルに対して基本的に歌詞はこれもまた率直に言って上手いとは言えない日本語詞であるなど、もう一つ惜しい点が多い作品だった。前述のとおり楽器隊の演奏技術は恐ろしく高いし、ヴォーカルも、現状はどうも才能で歌っている感じがするが、技術的な面の習熟によって強烈な伸びしろを持っていると感じた。ドラムとキーボードを募集中ということだし、次作にも期待したい。

良い音楽で良い毎日を! Akito Kitahara




2016年7月4日月曜日

評9:Sinbreed/Master Creator



SINBREED / MASTER CREATOR

01. Creation Of Reality
02. Across The Great Divides
03. Behind A Mask
04. Moonlit Night
05. Master Creator
06. Last Survivor
07. At The Gate
08. The Riddle
09. The Voice
10. On The Run

ジャーマンメタルの王道、という触れ込みでの宣伝を良く見かけるバンドで、本作はその3rdにあたる。触れ込み通り、実にジャーマンメタル的な緻密なメロディラインとパワーが同居する一枚だが、どちらかと言えばパワー寄りのサウンドでヴォーカルの歌唱法もパワーメタル的。音域の幅は決して広くなく表現の仕方にもそれほどの手数があるタイプではないもののどっしりとした、朗々とした唄いまわしでこのバンドのサウンドに実に良く似合っている。

楽曲の全体的な方向性としてはコーラスパートで大きく飛び出していく実に気持ちの良いメロディックパワーメタルで、「ここで来るでしょう!」というところでしっかり期待を裏切らずに飛び上がってくる、カテゴリのファンが大喜びで拳を突き上げるタイプのバンドだ。各パートの演奏はものすごく緻密で、それが実によくまとまって、タイトなバンドサウンドとして成立している。やや大仰過ぎるような展開も時々見られるが、それもむしろカテゴリのファンとしては望むところなのではないか。





スピードチューンを中心に構成された実に元気の良いアルバムで、#1~2の二曲で大体のメロディックスピード好きの注意を惹きつけることに成功するはずだ。決してモダンなヘヴィサウンドではなく、「古き良き」は言い過ぎなものの伝統的なジャーマンメタル的サウンド。そして各パートは圧倒的という表現が相応しいほどに安定したプレイングを見せる。前述のとおり、ヴォーカルは音域がそれほど広くはなく特にハイトーンで少々苦しさを見せるが実に魅力的な声をしている。

#4はオフィシャルでMVが公開されている楽曲で、実に印象的な一曲だ。フランツ・カフカ的な物語が展開されるMVと併せて楽しんでほしい一曲だ。次、タイトルチューンはコーラスパートへの展開が気持ちよく、しかしコンパクトにまとめられた佳曲だ。個人的にはもう少し長く尺をとっても良い曲、素材だと感じるが。

#7はアルバム唯一のスローな展開の曲で、イントロのピアノが静かに物語の幕を開く。展開はそれほど特殊なものではなく、完全に古典的なものなのだけれど、SINBREEDはむしろそういった、ありふれた展開、サウンドを百二十点に仕上げるバンドなのだと思う。新しいものではないが、或いは、新しいものではないからこそ完璧に近い一曲に仕上がっている。

#9は冒頭のシャウトは少々心配になるがロック魂を揺さぶられる一曲で、アルバム全体のハイライトとして実に良い仕事をしている一曲だと思う。#10は、アルバム本編の最終曲にして、神業クラスの最高に素晴らしいコーラスパートを要する佳曲。この一曲を最終曲として持ってくるその選択に敬意を表したい。この次もきっとSINBREEDは素晴らしい音楽をファンの元に届けてくれる、そう信じることが出来る、最高の一曲だ。

伝統的なジャーマンメタル、という売り文句にそれほどの意味があるとは思わないし、必ずしもジャーマンメタルの伝統的な部分を完全にこのバンドが体現しているとも思わないけれど、そんな事は関係なく、そう、まったく関係なく、SINBREEDは最高のバンドの一つだし、次回のアルバムもリリースされた瞬間に手にしたい、と感じさせる本作、MASTER CREATORはとても素晴らしいアルバムだと思う。

本作の評価

1、買うべき 
2、聴くべき<<<<<<<<特盛の焼肉弁当のようなアルバム!パワー出るぜ。
3、聴いたら忘れてもいい
4、ヒマな方はどうぞ
5、時間泥棒

北原亜稀人でした。

2016年6月27日月曜日

評8:Divine wind / REVIVAL



1. Beyond Centuries
2. Braver
3. Art Of Genocide
4. Front Mission
5. Guilty Beauty
6. Tomorrow
7. 夢幻
8. Season
9. 願い - Vo.相川なつ -
10. Desperate Charge
11. 霧雨
12. Missing
13. Inferno
14. Electro Magnetic Assassination
15. 不確かで儚きもの
16. BURN THE BRIDGE
17. Call Of The Awakening
18. 善悪の振子
19. Revival
20. Braver - Vo.相川なつ -

全部で20曲入った「ミニアルバム」という不思議な位置づけもDivine windでは割といつもの事で基本的には楽曲を発表していくことに重きを置いているのか、恐るべきお買い得アイテムを続々と繰り出す新進気鋭のスピードメタルバンド,Divine windなのである。あらかじめ申し上げておくと、このブログの筆者と同バンドは結構長いお付き合いをさせていただいていて、ロングインタビューを収録したり、スタジオ練習の場にお邪魔させていただいたり、このブログの主体であるN.E.YERSと提携していただいたりとお世話になりっぱなしの相手だったりするが、まあそれはそれとして、あらかじめ申し上げておくと一部、やや厳しい論調のレビューになってしまったことをお詫びしたい。同バンドを知り、応援し続けてきている一人のファンとしての思いの丈故であることをご理解いただければ幸いである。



着実に進歩を重ねるDivine windはヴォーカル・ギター・ギターシンセを担当するSATOSHI氏の弾きまくりギターを動とした時に対となる静のギターを担当する旧メンバー、という構図が印象的だったのも昔の話。現メンバーのTAICHIROU氏が加入後は動と動、いずれも弾きまくり系ギターとなりよりパワーを増した。バンドの屋台骨を支えるベースのReo5128氏、ドラム担当Show氏いずれもSATOSHI氏とTAICHIROU氏の激しくしかし正確なプレイングを強烈に支え、それだけでなく随所で自らも前線へと駆け上がっていく。基本的には極めてオフェンシブなバンドである。一方で楽曲の詩世界はどちらかと言えば繊細で、常に戦いを挑んでいるような展開よりはどちらかと言えば情感のこもった世界観を基本軸としている。割とJPOP的な、シンプルな関係性のストーリーが多いのだけれど、丁寧な言葉選びと着想の広げ方は好感を持って受け入れることが出来る。





本作ではバンドサウンド面として全体的に旧来作品に比べ音質の向上が見られる。特にギターとベースのサウンドについては驚くべき改善を見せており、十分に「聴ける」音になっている。ドラムははこれも旧来に比較して音圧面で向上しているがスネアの抜け等まだもう一歩の改善が欲しいと感じる面が少なからずあった。こちらも、少なくともミニアルバムについては電気的な方法での入力、打ち込みを使用しているとのことなので、機器の進歩に伴ってコストが押し下げられていくことによって改善が見られるだろう。一方で、周囲の楽器隊の音質が向上したことに対して生なサウンドをレコーディングするしかないヴォーカルの音質が据え置きになってしまった点は残念だった。ライブとはまるで異なるなんともヌケの悪い音でギターをはじめとした楽器隊の改善が顕著であるからこそそれが目立ってしまっていて後入れ感が強い。なかなかコスト的にも難しい側面はあろうが、個人的には各音源作品の価格を倍~三倍にしてでも十分に売り上げる力を持つバンドだと思う。コストとリリース商品のバランスについて再検討する時期にきているのではないか、と感じるところである。

多彩な楽曲が収録される同バンドのアルバムにはいつも驚かされるが、一方でこれは相変わらずということになるのだろうけれど世界観に統一性はあまりなく、良い表現としての「多彩さ」の一方で、悪く表現してしまえば「見本市」的な状態に陥っている。特にDivine windの場合は彼らの位置づけとしての正式リリースアルバムとそうでないものの楽曲収録数や傾向にそれほど差がないため、バンドとしての実像を聴取者に与えづらい点が少々勿体ないように感じる。また、さまざまな作品において入れ替わり立ち代わりゲストヴォーカリストが登場するが、個人的にはまるで必要性が理解できない。決して上手くもない極めて一般的なヴォーカリストでセールス的に何か寄与するとも思えないのだが友情出演的なイメージでとらえるべきなのだろうか。残念ながら本作に参加している女性ヴォーカリストについても、これまでのDivine wind作品に登場してきたゲストヴォーカル勢よりは幾分まともではあるもののこれといってコメントの必要なヴォーカルだとは思えなかった点は残念だった。ハイトーンで伸びのあるSATOSHI氏の代わりとしてヴォーカルをとる以上、性別はさておき同じような性質のヴォーカリストを連れてきて歌わせたところで面白くなるかどうか、と言えばやはり疑問が残る。

全体の楽曲を見ていく。Taichirou氏加入後の同バンドは積極的にギターのハモりフレーズを取り入れており、今作でも、美麗でこれまでの同バンドのインストゥルメンタルよりもやや手の込んだオープニングチューンから続いて披露されるBraverにおいて扇動的で、思わず拳を突き上げたくなるツインリードフレーズが高らかに響く。続くArt Of Genocideはこれまでの同バンドにはあまり見られなかった、サウンドだけでなくテーマ的にも極めてオフェンシブな楽曲。スタスタ、と小気味良いスネアが先導し、サビパートで爆発的に広がる展開はライブ受けも良さそう。この速度の楽曲であっても涼しい顔で再現出来てしまうのがDivine windの特長の一つだ。
Tomorrowは同じバンドおなじみの楽曲で、今回はより状況の良い録音で再録されている。SKYLARKのMt.Fujiのように末永く収録されることになるのかもしれず、個人的には進化していく楽曲としてそれも面白いのではないかと思う。そしてわざわざ再録するだけあり、確かに音質面で著しい進化をしている。本作を持って現在の最新パッチという見方で良さそうだ。
後半、11曲目に収録された霧雨は丁寧に描かれた歌詞世界に注目したい。音質を向上させた再録曲ではあるが、全体的にやや整理された印象。ピアノの優しい間奏からなだれこむソロパート(ギターとギターシンセ?)は圧巻。ヴォーカリストとしてのSATOSHI氏のレンジの広さにも注目したい一曲だ。続くMissingは典型的なDivine wind節。これぞDivine windの速いのだぜ! と言わんばかりの展開。バンドの音をしっかり持っているから出来る一曲。プレイ難易度の高いフレーズが多く、展開も速く、ヴォーカルは超がつくハイトーン。ギターソロは情熱的な弾きまくりプレイでありながらも叙情性を兼ね備える。一般的なバンドでは到底真似のできない、Divine windならではの曲世界の、まさに真骨頂と言える一曲だ。二トラックの幕間を挟んでの「不確かで儚きもの」はライブで再現するとしたらドラムが死んでしまいそうな猛烈スピードチューンでゲーム音楽的な響きながらサビメロの爆発力と一挙に世界を広げる展開のセンスはさすがの一言。また間奏ではこれまでになくデジタルなサウンドをフィーチャーしており、Divine windの新たな展開を予感させる一曲だ。

活発な活動をエネルギッシュに続けるDivine windは常にファンの期待を上回る作品を世に送り出し続けている。これは確かな事実であり、次回作にも期待したい。次は今作よりも更に音質を向上してくるだろうし、更に速い曲を用意してくるかもしれない。常に進化し発展していくバンドだから、応援する側としても実に楽しい。本稿を仕上げているのが2016.06.26である。7月3日にはまた大きなイベントに出演するとのことだ。今後の、想像もつかないような進化を一ファンとしても楽しみにしている次第である。

本作の評価

1、買うべき <<<<<<<<YOUTUBEのクロスフェードをまずは是非ご覧ください。
2、聴くべき
3、聴いたら忘れてもいい
4、ヒマな方はどうぞ
5、時間泥棒

北原亜稀人でした。



2016年6月24日金曜日

論2:日本語歌詞というハードル

 個人的には国産のヘヴィメタル市場を応援したいと考えている。インディーシーンには無数の有力バンドがひしめいていることも理解している。メジャーシーンについてはレーベルのやる気の無さゆえか、ヘヴィメタルという枠組みで考えると今一つではあるのだけれど、そもそも論をしてしまえば、もう一部のジャンルを除外して、音楽のクォリティ面ではメジャーだろうとインディースだろうと大差ない時代になってきているのが実情だ。優れたツールを安価で用意できる時代になったし、プレス枚数もずいぶん自由になった。アマゾンをはじめとして購入者の購買行動の多様化もあり、メジャー流通だから、インディースだからという部分での差異はプロモーションにかけられる費用、人的資源であったりプレス枚数、そういった規模の部分が殆どである。従って、インディースシーンがディスクユニオン等の理解ある店舗の助力もあって活発な活動を続けることが出来ている現状は決して悲観的なものではなく、むしろ、アンダーグラウンドとしてひとくくりにされてしまう時代ではないという点では好材料が揃ってきていると言えるだろう。

 一方で、これはHR/HMのみに当てはまることではないが日本語を音楽の中で取り扱う一定のむずかしさを最近リリースされる若手バンドの商品に触れる度、感じずにはいられないのである。このブログではHR/HMを基準点に観るが、現状では日本語歌詞は比較的自由な扱いを受けている。それはつまり韻にとらわれない、極めて散文的なスタイルだ。自由度が高い分扱いは難しくなるし、語彙力の無いバンドの歌詞は時に小学生の作文のようになりかねない。一つの事象を伝えるにあたってどのような表現を用いるか、どのような言葉を選ぶか。この点は極めて重要である。何故あらかじめこのような前提をつけたかと言えば、ここ最近散見されるスタイルとして、特にこれはメロディックスピード系のメタルに見受けられるが、「日本語歌詞」にこだわるという割には日本語のレベルが低い、そういう事態が極めて多い、これである。例えば、英語のバンド名、新譜タイトルも英語であるケースを考えてもらいたい。メロスピ界隈、そこにちょっとシンフォニックなキラキラ要素も入っているようなバンドの場合、大体はLightであるとかDestinyであるとか、何処かファンタジックな、テレビゲームのような英単語が並ぶことになる。その世界観を「日本語で表現」するということの恐ろしさを、おそらく彼らは理解していない。そもそも世界観の前提が極めて西洋的である、それを日本語歌詞として表現する場合、よほど注意をこらして、本気で「作詞」に取り組まなければほぼ間違いなくその歌詞は陳腐なものになる。その結果として「君を守りたいから僕は何度でも立ち上がるんだ」みたいな最悪の歌詞が羅列されてしまう悲惨な結果になる。英語が出来ようが出来なかろうがその世界観なら辞書を引きながらでも英語で作詞したほうがよほど楽だろうなあ、と思うのだが。
 こういった日本語歌詞の扱いの困難さを、例えば陰陽座は世界観そのものを和式に変換することによって極めて巧に回避している。逆にあの世界観を完全に英語で表現するのは極めて困難だ。SEX MACHINEGUNSは歌詞を冗談の類にすることによって回避している。初期~中期ぐらいまでは上手くいっていた試みだと一聴取者としては感じる。やけに際立ったキャラクターを設定しなければ歌詞世界が成立しないようになってきている最近の彼らの作法については少々残念に感じる。以前はそういった飛び道具的な設定を使わなくても、より生活感のあるリアルな、現代詩的な歌詞を器用に成立させていたと思うのだが。

 日本語は和語、漢語、外来語が入り混じる点もありなかなか扱いの難しい言語だ。日英混在歌詞はより扱いの難易度があがってしまうしそもそも個人的にはナンセンスであると感じるので今回は措くが、一曲、或いは一枚というスケールの中で日・英いずれかの言語を選択するとき、いずれにしてもそれぞれの言語について、作詞するに足る語彙力を養うことは必要不可欠だ。英語歌詞ならばいかにして韻を踏んでいくのか。これは最近妙に流行している(しているのか?)Lyrics Videoの類を見ることでおおいに養われるところだろう。どのようにして単語が選択され、慣用表現をいかに成立させているのか。特に英語圏というわけではない日本人にとっては発音の仕方一つとっても勉強になることは多い。
 日本語で歌詞を書くならば少なくとも百冊、出来れば五百冊は意識的に本を読むべきだ。特にメタル系の歌詞と親和性の高い西洋からの翻訳小説を読むことを、メタルよりも長い時間文学を学んできている身としては推奨したい。どのような語からその訳になっているのかを想像しながら読むだけでも想像力や、言葉を選ぶセンスが養われるはずだ。

 冒頭との重複になるが個人的にはインディースシーンのメタルバンドを特に応援している立場だ。そして、前述のとおり今では音楽的なクォリティの面でメジャーとインディースシーンの差異はほぼ消失してきている。そして、だからこそ注意したいのは商業ベースで厳しく査定されるメジャーシーンとは異なるインディースベースである場合、歌詞面を含めた音楽作品における瑕疵を指摘し修正する仕組みがどうしても働きにくいということは一つ挙げておきたい。小規模のバンドにおいてプロデューサーを招聘したり歌詞を外注したりすることは困難であることは想像に難くない。バンドやソングライター、クリエイターの努力が求められる部分だ。

 個々のバンドを批判するわけではないが、特にHR/HMにおける日本語歌詞で「これは優れた歌詞だ」と感じることが殆どない、これは残念なことだと思う。歌詞のレベルだけで見ればメジャーシーンでたたき上げられているからだろう、いわゆるJ-POPのほうが数段上の水準にある。一人のHR/HMファン、批評家として、日本語のメタルシーンがより充実したものになることを願って本稿を記載した次第である。
 

2016年6月19日日曜日

評7:Nightmare/Insurrection(2009年)


Nightmare-Insurrection

1.Eternal Winter
2.The Gospel of Judas
3.Insurrection
4.Legions of the Rising Sun
5.Three Miles Island
6.Mirrors of Damnation
7.Decameron
8.Target for Revenge
9.Cosa Nostra (Part 1 the Light)
10.Angels of Glass

1979年結成、という情報に触れると「ウソだ!」と言いたくなるぐらいに元気なメタルアルバムで、今回紹介するInsurrectionは7th。老舗バンドにしては日本で同バンドの情報がそれほど広まらないバンドなのは某ヴィジュアル系バンドと同じ名前のせいで検索デブリ状態になってしまうことと無関係ではなさそうだ。ヴィジュアル系の方は聞いたことがないのだけれど恰好良いのかしらん。

重ねている歳月の割には全く落ち着かない一枚(79年結成、2009年のアルバムということは三十年の節目ということになる!)で、若く荒ぶるメタルファンを満足させるのに必要な、いや、それ以上のエネルギーを供給してくれる熱いアルバムだ。叙情的でありながら硬質なパワーを感じさせる様やリフでがんがん押し込んでいくスタイルはいかにもメロディックパワー的でカテゴリーのファンに強く訴えかける。




全体的に金属質な、硬めのサウンド作りで正統派感を強く感じる。シンフォニックなメタルを普段多く聴いているリスナーだと少し味付けがきつく感じるかもしれない。ヴォーカルは表現力が多彩で、音域はそれほど広くないものの飽きさせない。楽曲構成が極めて巧みでそれぞれの楽曲が見せる表情は同バンドのファンのみならず、メロディックスピード、メロディックパワー系統を好む幅広いリスナーに届くはずだ。重低音がしっかり出る再生環境で聴きこみたい。

常に楽曲を牽引していくリフのスタイルはどちらかと言えば典型的なもの、自然と受け入れやすいスタイルのもので、奇抜であったり技巧的であったりするものではないがこのバンドの聴き味からして極めて適切な選択をしていると思う。

何曲かを取り上げる。

2.The Gospel of Judasは開幕から思わず身体の動く佳曲である。単音リフが切れ味鋭く楽曲を牽引していく一曲で、全体的に引き締まったイメージの一曲。その中でヴォーカルのJoeは伸びやかで力強い、且つダーティなシャウトで楽曲の持つやや薄暗い印象をしっかり強調し、同時に退屈ではないものに仕上げている。

燦然と輝くタイトルチューンInsurrectionはライブで全力で乗りたい、素晴らしい一曲だ。拳を突き上げ、合唱したくなる。メタルの熱さ、美しさ、激しさ、気持ちの良さが一つの力強い塊となって体現されている。

10.Angels of Glassは楽曲の導入からBセクション~コーラスへの展開の美しさが素晴らしく、ヴォーカルの多彩な表現力を確認できる一曲だ。

今なお活動を継続する老舗バンドは今年、ヴォーカルとドラムを新メンバーへと交代、新譜をリリース予定ということだ。新たなNightmareがいかなる一枚を仕上げてくるのか、こちらも注目したい。

本作の評価

1、買うべき 
2、聴くべき<<<<<<<<高いレベルの一枚。ぜひ聴いてみてください。
3、聴いたら忘れてもいい
4、ヒマな方はどうぞ
5、時間泥棒

北原亜稀人でした。



2016年6月17日金曜日

評6:HEAVENLY/COMING FROM THE SKY



カミング・フロム・ザ・スカイ ビクターエンタテインメント

1. カミング・フロム・ザ・スカイ
2. キャリー・ユア・ハート
3. ライディング・スルー・ヘル
4. タイム・マシン
5. ナンバー・ワン
6. アワ・オンリー・チャンス
7. フェアリーテイル
8. マイ・ターン・ウィル・カム
9. アンティル・アイ・ダイ
10. ミリオン・ウェイズ
11. ディフェンダー
12. プロミスト・ランド

仏産のメロスピバンドHeavenlyの1stアルバム。2ndの出来が良くてそこから入った人や、現状のサウンドに近い形態となった3rd以降から同バンドを知った人もいるだろう。それぞれのきっかけによってこの1stの評価は大きく分かれそうだ。

Gamma rayをちょっと弱体化させたような音で、1stながら既に随所に高い技量を感じさせる。アルバム全体を包み込む雰囲気は決して悪くないが、完全にジャーマンメタルに引っ張られた作り(プロデューサーはIron Saviorのピート・シールク、ゲストヴォーカルとして同氏とカイ・ハンセン参戦というからやむを得ないのだろうが)で、多くの人が評価するのと同様、HELLOWEENやGamma rayの幻想を追いかけているアルバムとして仕上がっているが、ポイントとして、それそのものの完全なフォロワーというよりは、HELLOWEENやGamma rayはこういうのだよね! というある程度デフォルメされたイメージへの追従、それが結果としては1st~2ndのHeavenlyの音として一定のクォリティを獲得するに至っている。ヴォーカルの質感はキスクをイメージ、と評されるほどにはキスクではない。どちらかと言えば刺さる系統のハイトーンで、キスクが(恐るべきことに今でも殆ど変わらずに)披露する余裕綽綽な伸びやかなハイトーンとは異なる。線の細さが付きまとう声質だが3rd以降は低~中音も効果的に使うようになりその幅を広げるものの、Youtube上で最も新しい年代の動画を見る限りでは加齢とともに少しずつ高音域が苦しくなってきているようだ。3rd以降ノドを締めるような発声クセが顕著になり始めた、その影響もあるのかもしれない。幅は確かに広がったし、独特な響きの歌いまわしは確かにBen sottoが独自性を手にするために必要だったのかもしれないが個人的には1st~2ndの前向きな、ぶっぱなしのハイトーンに好意を覚える。





アルバム全体は若々しい雰囲気、エネルギーを強く感じる仕上がりである。#2はアルバム全体の物語、そのスタートにうってつけの勢いあるナンバーだ。後年のHEAVENLYが遠ざかっていったタイプの楽曲だが、逆に1st~2ndではこの手のエネルギッシュで前向きでシンプルなスピードチューンがバンドを象徴していた。#4はカイ・ハンセンがヴォーカルとしてゲスト参加しているナンバーで題材にぴったりの明るい聴き味の良作に仕上がっている。深く考えずに聴くことが出来る佳曲だ。途中で短いインストナンバーを挟むが全体的にはファストナンバーが続く様は全体的なメリハリよりもそのエネルギーを放出することに力点が置かれているように感じられる。そのため全体の楽曲イメージが似通ってしまっている点は否定できず、人によっては飽きを感じてしまうかもしれない。

日本盤ボーナスとして収録されている12. プロミスト・ランドは同アルバム唯一のスローな、じっくり聴かせる一曲だ。これ、ボーナスでなくてアルバムの途中に入れることは出来なかったのだろうか、と少し考えてしまう佳曲である。当時のBes sottoの声質、歌い方にとてもよく似合っている曲だし、勢いだけでない、丁寧なフレーズを奏でるギターソロも実に美しい。こういうのも出来る、というアピールとしての力の強い一曲だと思うのだけれど、どういう理由でボーナストラックという位置づけになってしまったのだろう?

残念ながら、現在は活動をあまりしていないのか、公式サイトも行方不明状態になっている。若くエネルギッシュな2枚を経て3rd、4thとどんどん良くなっていったバンドだけに新たな音源での再登場を期待したい。




本作の評価

1、買うべき 
2、聴くべき
3、聴いたら忘れてもいい
4、ヒマな方はどうぞ<<<<<<<< HEAVENLY聴くのに敢えて選ぶ一枚とは言えない。
5、時間泥棒

北原亜稀人でした。



2016年6月12日日曜日

評5:Oratory/Beyond Earth(2003年)



1. Beyond Earth
2. Living Wisdom
3. Your Glory Won't Last Forever
4. Eternal
5. Heroes From The Past
6. Concilium
7. Old Man's Prophecy
8. Song Of Lust
9. Victory Of Light
10. Story Of All Times
11. A New Quest

ポルトガルのネオクラメタルバンド、Oratoryがヴォーカルをアナ・ララという女性に交代しての2ndだがそれ以降の消息が今一つ判然としない、つまりはそういうクラスのバンドである。演奏が際立って上手いということはないのだが必要十分で、音作り全体は悪くない。少なくとも可能な範囲で最大限に気を使っているような、そんな音作りに感じられる。ヴォーカルの声量は控えめで、あまりメタル向きとは言い難い歌唱なのだけれど、不思議な透明感と牧歌的な雰囲気(このジャケから牧歌的なヴォーカルなんか絶対想像できないよな)で、なんだか良い奴感の漂う、そんな歌い方だ。個人的にはネガティブな評価はしない。キーボードはしっかりとキラキラしていて、この手のメタル特有のキンキラキンキラとした音にしっかり一役買っているが、例えばSKYLARKあたりとは違って上手く全体の編成の中でキーボードにもしっかりと居場所を与えている、そんな印象だ。

所謂B級メタルと言われるような類のバンドなのだけれど、このアルバムの発売当初は専門店でそれなりに良い評価を獲得していたように記憶をしている。基本的にジャケ買いをためらわないタイプの人間ではあるけれど、十三年前の記憶を無理やり引っ張り出したこの感じとしては当時このアルバムは一応面出しされて、それなりに大きく新譜として扱われていて、それで購入したような記憶であるが……まあアテにはならない。

※著作権者または著作権の隣接権利者がアップロードしている動画が見当たりませんでしたので今回は動画の掲載がございません。

全体的に緩急を心得た作曲をしていて、ドラムの音が少々安っぽくはあるのだけれど何処で加速していくのか、来てほしい時に来る、そういう曲が多い。メロスピ系だったら基本的にOKというリスナーには幅広く受け入れられると思う。聴き味は相当やわらかいので、メタルをあまり聴かないというリスナー、例えば日本ならばGLAYなどのポップスとロックの中間ぐらいの音楽を好む層にも楽しんでもらえる一枚だと個人的には感じる。

音数は全体的にそれほど多くはない。特にヴォーカルパートは長めの音符を多用していて、伸びやかな歌唱が強調されている。バックのコーラスはかなりクセがあって、両者の重なり合いはこのバンド、このメンバーでしか出せないものとして聴きどころの一つと言えるだろう。

どの楽曲にも同バンドの特徴的な音が込められていてなかなかこの曲を、という語り方の出来ないアルバムなのだけれど全体を俯瞰するとアルバム後半により聴き味の良い曲が集められているという印象である。Victory Of Light~A New Questまでの流れは是非通しでそのまま聴いてほしい。身もふたもない言い方をしてしまえばこれがこのバンドの全てとも言える、それぐらい濃密な三曲だ。多種多様な引き出しで様々な世界観を表現するバンドというよりは、お定まり、お決まりの雰囲気、音作り、曲作りでしっかり得意の音を持っている、そういうバンドだからこそである。その得意な方向性がツボにはまるリスナーならばきっと、最初から最後まで何の違和感もなく聴きとおせるはずだ。このアルバムにはそれだけの力がある。

日本盤にはA New Quest以降にボーナストラックとしてThe BanglesのEternal Flameメタルアレンジカバー(これがかなり出来が良い!)とMetal Messenger(1st収録曲)のライブバージョンが収録されている。

本作の評価

1、買うべき 
2、聴くべき  <<<<<<<< ジャンルで愛せる人は是非。
3、聴いたら忘れてもいい
4、ヒマな方はどうぞ
5、時間泥棒

北原亜稀人でした。